nekonoongaeshi’s diary

鉄印の旅と植物と保護猫と。田舎暮らしの日々を綴っています

秋だからこそ信州

今年は暑さが長引きましたね。でも山には確実に秋の足音が。ご存知ですか?紅葉の南下は1日50mといわれています。

手持ちのNikonのフィルムスキャナーが古くて今使用しているパソコンに対応しておりませんので、ブログにはスマホ写真しかUPできません。💦

しかも高性能とは言えないアンドロイド。

そこで駒ケ根千畳敷カールのフリー画像を拝借。先日、千畳敷の紅葉がニュースになっておりました。

 

 

秋だからこそ信州

 「11月の連休は西穂へ行こう!」
そう言って主人が出勤したのは、10月の末の月曜日でした。  
見送るやいなや、慌ててキャンプ用品一式を車に積み込みました。我が家の旅行は、主人がいきなり決定することが多く、週末を利用する場合は殆どが金曜日の夜から車を走らせることになります。

 西穂高岳へは、ロープウェイを利用する一般向きのルートと、上高地・帝国ホテル前から西穂山荘(せいほさんそう)まで片道3時間10分の登りのルートがあります。
今回の西穂高行きは、後者のコースで雪山登山を楽しむことになりました。
ひまわり天気によると11月3日の関西は曇りのち晴れ、全国的に3連休は快晴の予報でした。
 ところが岐阜へ入ると大雨。日本海側は荒れているのか暗黒雲が広がっています。
今年の7月、北アルプスの槍ガ岳へ向かう途中、土砂崩れで走れなかった荘川村(現:市町村統合により高山市荘川町)の峠にさしかかると2~3日前の残雪のすごさに驚きました。
乗鞍スカイライン上高地へ入る安房峠(あぼうとうげ)も積雪の為通行止めになっており、急遽予定を変更して、高山経由で平湯~新穂高温泉口へまわることに。
ロープウェイ駅横の駐車場で4時間の仮眠をとり、翌朝激しい雨音で目をさますと、雨にもかかわらずバスツアーの観光客の長蛇の列が‥‥。 

 小降りになった雨の中、出発です。
ロープウェイ山上駅に着くと、下界の紅葉の風景とは異なる、真っ白い別世界が私どもを迎えてくれました。
ロープウェイを利用すると、山上駅から西穂山荘まで1時間20分の登りでアイゼン無しでも楽に山小屋まで辿り着けます。積雪は25~30cmくらい。山荘のスタッフから「天候が悪いので今日はやめたほうがいい」
と言われたのですが、夕食までには必ず戻ると告げて、山荘を後にしました。
丸山から独標(どっぴょう)まで1時間30分の登り。稜線上では谷底から吹き上げる強風に何度も身体が宙に浮き、雪煙が走ります。2~3cm先の視界もままならず、髪の毛や膝がパリパリに凍りついて帽子をかぶっていても頭が深深と冷えました。
独標で記念写真を撮り、鎖場をつたわってピラミッドピークを目指すことに。
ここから西穂岳山頂まで更にコースタイム1時間30分。岩稜を這うように、ゆっくりゆっくり歩いて行きます。鎖場で手間取り、情けない格好で岩にしがみついていた私は、とうとう主人に「ここで待っているから、頂上まで行って」と弱音を吐きました。おそらく主人の足なら50分~1時間余り。

「ここまで来たのに?」(そう言いたげな顔をしながらも)
「こんな所に2時間も座っているなんて危険だ。一緒に引き返そう」少し残念そうに言いました。
晴れていれば南には焼岳と霞沢岳、西に笠ガ岳、東には前穂高(3090m)、奥穂高岳(3190m)、西穂~奥穂へのジャンダルムやロバの耳と名付けられた岩稜の連なるパノラマが展開するはずなのに‥‥‥。
下山のフットワークは軽く、兎のようにピョンピョンと跳ねる私のうしろで主人が呪文のようにこう言いました。「○○○、雪山の西穂高未踏に終わる。〇〇〇〇年11月4日」

除雪作業をしていたスタッフが、「おつかれさま~」と笑顔で迎えてくれて、山荘ではストーブを囲んで20人余りの人が読書やおしゃべりを楽しんでいました。
 夕食の温かいお味噌汁、本当にありがたかったです。現在の西穂山荘は3年前に火事で全焼した為、新築され、吹き抜けのダイニングルームと総フローリングが自慢のペンション風山小屋になっています。
1泊2食付きで¥8500。オールシーズン営業は魅力ですね。
夏山登山ですと、この西穂山荘から独標まで行列ができるほどの賑わいをみせます。

翌朝、まだ夜の明けぬうちに三脚とカメラをを持ってもう一度、独標へと向かいました。
静寂の中に雪を踏む足音だけが響きます。東の空が朱色に染まり、西の空は笠ガ岳を包み込むように薄紫からピンク色に変わりました。御来光です!
逆光で、ダイヤモンドダストがキラキラと輝いて見えました。
リバーサルフイルムを2本撮りきって下山。昨日までの悪天候が嘘のような青空の11月5日のお昼、温泉に浸かり信州をあとにしました。
高山市内で郷土料理をいただき、御幣餅をほおばりながら、無事帰路に着いたのでした。

 

 

 学生時代、天文部に所属していた私は、天体観測で何度か信州を訪れましたが、まさか登山の為に信州へ通うようになるとは思いもしませんでした。
しんどいだけで無駄なことだと思っていた山歩きで素晴らしい発見をしたのです。
吊り橋や林道、尾根道や岩場で擦れ違う見知らぬ人が、にっこり笑って挨拶をしてくれるのです。
急なのぼり坂では「頑張って!」と声をかけてもらい、その挨拶に励まされ登頂を果たしてきたような気がします。他に交わす言葉などないけれど、みんな懐かしい旧友に出会えた時のような笑顔で声を掛け合います。その、擦れ違う瞬間が嬉しくて私はこれからも山登りを続けるでしょう。

 山はやっぱり信州、秋だからこそ信州ですね。


※ 西穂高岳の登頂は翌年の11月連休に再び挑戦。無事完登しています。

(エッセイ*HPから移転)